1)小胞体ストレスに関する研究

図1.小胞体ストレス応答に関わる分子とシグナル伝達
我々はこれまでにアルツハイマー病原因遺伝子プレセニリン-1が、小胞体ストレスセンサー(IRE1, PERK, ATF6)の活性化を抑制し、その結果神経細胞死に導くことを証明した(Katayama et al. Nature Cell Biology, 1999, Imaizumi et al. Nature Cell Biology, 2001)。この研究成果は後にパーキンソン病やポリグルタミン病などの神経変性疾患の発症に小胞体ストレスの関与を示唆する成果にもつながっている。
このように神経変性疾患をはじめとする様々な疾患の発症機序を解明し治療戦略を開発していくには小胞体ストレス応答の全容解明が必須と考え、以下に示す研究テーマを現在進行させている。
テーマ1.新規小胞体ストレスセンサーの発見-細胞種ごとに異なる小胞体ストレス応答
我々は脳の反応性アストロサイトに発現する新規小胞体ストレスセンサーOASISの発見に成功した。構造的にはATF6によく似ており1回膜貫通型の転写因子で、N末端側に遺伝子転写活性化ドメインとDNA結合に重要なbZIPドメインを持つ(図2-A)。膜貫通部位にはゴルジ局在性のプロテアーゼS1PおよびS2Pの基質になり得るアミノ酸配列が含まれている。小胞体ストレスを負荷すると時間依存的に55 kDaおよび50 kDaの切断断片が産生され、この断片は核内に移動する。核内ではERSEおよびCRE(cyclic-AMP response element)配列に結合して小胞体分子シャペロンGRP78/BiPを誘導する。
小胞体分子シャペロンを強発現させると小胞体ストレスから保護されることが知られている。そこであらかじめ細胞にOASISを発現させておき、小胞体ストレスに対する抵抗性を検討してみた。すると細胞はOASISにより分子シャペロンが誘導されるため、小胞体ストレスに対し強い抵抗性を示すようになる。逆にsiRNAでOASIS遺伝子発現を抑えると細胞死が増強される。興味深いことにOASISは小胞体ストレス刺激によりアストロサイトにおいてのみmRNAレベルで誘導され、アストロサイト以外(神経芽細胞種、HEK293T細胞、線維芽細胞など)の細胞では誘導されない。つまりOASISはアストロサイトにおいて小胞体ストレスセンサーとして機能し、小胞体ストレスに対して保護的に働くことでアストロサイトにストレス抵抗性を獲得させているのである。OASISのUPR活性化機構を図2-Bにまとめた(Kondo et al. Nature cell Biology, 2005, Murakami et al, J.Neurochem., 2006)。

図2.OASISの構造(A)と活性化機序(B)
テーマ2.OASISに似た小胞体ストレスセンサー群
OASIS以外にもATF6と構造的によく似た分子が次々に発見されている。CREB-H、AIbZIP/Tisp40、Luman、BBF2H7である(図3)。これらはいずれもあらゆる細胞に発現しているわけではなく組織特異性がある。我々は現在、BBF2H7に着目して研究を進めている。BBF2H7は、OASISと同じように小胞体ストレスに応答して膜内切断を受けること、GRP78/BiPのプロモーター領域に結合し転写誘導を活性化させること、さらには脳虚血時の神経細胞に強く発現することなどを明らかにしている(Kondo et al. Molecular and Cellular Biology, 2007, in press)。生体内におけるBBF2H7の役割を明らかにするためにノックアウトマウスを作成し解析を行っている。

図3.OASISに似た構造をもつ新規小胞体ストレスセンサー
・骨と軟骨形成に小胞体タンパク質が関与
Nature Cell Biology に2つの論文を同時に発表
テーマ3.小胞体ストレス誘導性オートファジー
小胞体ストレス時における細胞の形態変化はあまりよく調べられていない。そこで電子顕微鏡を用いて小胞体ストレス負荷後の超微形態変化を観察した。ツニカマイシンやサプシガルジンにより小胞体ストレスを負荷した神経芽細胞腫SK-N-SH細胞において、ストレス処理後2-6時間で、オルガネラを取り込んだ2重膜構造体、すなわちオートファゴゾームが高頻度に観察された(図4)。オートファジーのマーカーであるLC3の動態を蛍光顕微鏡による観察とウエスタンブロッティングにより検討したところ、小胞体ストレス時にLC3がプロセッシングを受け活性化し、オートファゴソームに局在していることが観察された。このオートファゴゾーム形成はIRE1欠損細胞では観察されないことから、小胞体ストレス誘導性オートファジーにはIRE1からのシグナルが必須であることがわかった(Ogata et al., Molecular and Cellular Biology, 2006)。
それでは小胞体ストレス後に起こるオートファジーは何をしているのであろうか?オートファジーの阻害剤である3-methyladenineを処理すると小胞体ストレスによる細胞死が増強された。さらにオートファジー不全株であるATG5欠損細胞、ATG5ノックダウン細胞でも同様に小胞体ストレスに対する抵抗性は減弱していた。以上の結果から小胞体ストレス誘導性オートファジーは小胞体ストレスから細胞を保護する可能性が示唆された。
オートファジーは細胞内の長寿命蛋白質やオルガネラなどの消化を担う細胞内タンパク質バルク分解系として機能している。小胞体ストレス時にオートファジーが活性化していることは、小胞体関連分解(ERAD)とは別に小胞体内に蓄積した異常タンパク質を小胞体ごと分解排除している可能性を示すものである。今後、さらに小胞体の微細構造の解析やタンパク質分解機序の解析を通してオートファジーの生理的役割を明らかにしていきたい。

図4.小胞体ストレス誘導性オートファジー