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1. 基礎研究についてのご案内

  研修医の先生方におかれましては、日々の臨床研修に熱心に取り組まれ、充実した日々を送っていらっしゃることとお慶び申し上げます。現在送られている臨床医としての研鑽の道の先にある選択肢、基礎研究についてご案内いたします。

  基礎研究という言葉はどちらかというと敷居が高く、取っつきにくいイメージがあるのではと思います。実際のところ基礎研究は、臨床に勝るとも劣らず非常に奥が深く、臨床と同等に様々な知識と技術の習得が必要であり、やりがいがある分野です。また、臨床以上に自分の考え方や、自分で行った実験内容、技術が正しかったかどうかを完全に反映してそのまま結果として返ってくる、とてもタフな仕事です。例えるならば研究者は登山家や冒険家に似ていると思います。ピペットマンというピッケルを持って、論文という名のコンパスを持ち、一歩一歩山を登っていく感じです。一歩一歩自分の手で登っていくのは地味でつらい作業であり、足を踏み外したり、道を間違えたりすることは多々あります。それでも、自分の足で山頂に達し、自分が世界で初めてある事象を発見したときに得られる達成感、それを第三者に認めてもらえたときの喜びは、なかなか他では得られないものがあります。またそれが未だ解明されていない疾患の原因や、新しい治療につながることを考えると、ものすごく素晴らしいことと思いませんか。

  長い人生の中で、将来的に臨床医として広い視野と、物事を論理的に思考する技術を身につけるために、大学院に進み基礎研究をやってみるというのはいかがでしょうか。当教室が担当している神経疾患、呼吸器疾患、内分泌疾患、代謝疾患には難治性のものが多く、まだまだ解明されていないことが山のようにあります。より良い治療法をみつけたい、今この世の中でわかっていないことを自分の手で解明してみたい、おもしろそうだなと少しでも研究活動に興味が湧いてきたという方は、ぜひご連絡、ご相談ください。ぜひ私たちと一緒に誰も登ったことのない山を登ってみましょう。

  具体的に、当教室では後期研修後に大学院での研究活動を行うことを一つの選択肢として推奨しています。大学院に入学した後は、研究指導医のもとで、日々のディスカッションを行いながら研究課題について検討を進めていきます。また、1回/1〜2週の割合で、研究の進捗状況を発表するデータカンファレンスと抄読会を行います。約2〜3年の期間で実験をまとめ、論文作成、学術誌に投稿、採択までが大まかな流れです。その過程で将来的に臨床医として必ずや役立つ、いろいろな事象を論理的に考える習慣や、広い視野が自ずと身についていくと思います。当教室では研究成果の発表を国内の各学会での学術総会をはじめ、海外の学会でも積極的に行っています。また、希望者には国内や海外への留学も積極的に斡旋しています。

 

私達の論文がThe Journal of Clinical Investigation で"in this issue"に採択されました。

     
 

American Thoracic Society International                conference  (2007, San Francisco)での発表

   
 

  続いては、現在当科で行っている基礎研究についてご紹介します。
下記のように、当教室の特色を生かし多角的に、多疾患にわたって臨床に直結できる研究を推進しています。

(1) 神経グループ
−家族性アミロイドポリニューロパチーの分子生物学的研究−
  家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は、遺伝的に変異を起こしたトランスサイレチン(TTR)、ゲルソリン、アポAIなどが前駆蛋白となって線維状の構造を持つアミロイドと呼ばれる特異な蛋白質が、神経節を含む末梢神経、自律神経系や他の組織に沈着することにより臓器障害を引き起こす全身性アミロイドーシスです。当教室では、分子生物学的手法を用い、家族性アミロイドポリニューロパチーの病態解明、トランスサイレチン沈着機構の解明とその制御により、新規予防、診断、治療法の開発を目指しています。

−新規神経ペプチドによる摂食調節とエネルギー代謝機構の研究−
  近年、肥満者の増加と肥満を基礎にして発症する糖尿病・脂質代謝異常、高血圧症などの肥満症やメタボリックシンドロームを呈する患者数が増加しています。グレリンは胃から発見されたペプチドで、摂食亢進や体重増加、消化管機能調節などエネルギー代謝調節に重要な作用を持ち,今まで知られている中で唯一の末梢で産生される摂食促進ペプチドです。肥満や摂食障害などの病因におけるグレリンの意義も解明されつつあります。当教室では、グレリンの持つ幅広い生理作用の解明や、NPY等の摂食調節ペプチドの機能解析を進め、ペプチドそのものや受容体のアゴニスト、アンタゴニストといった新規の抗肥満薬の開発や実用化を目指しています。

(2) 呼吸器グループ
−癌抑制遺伝子の呼吸器疾患での病態生理学的意義−
  肺の上皮細胞で特異的に特定の遺伝子を欠損させたコンディショナルノックアウトマウスを用いて、各呼吸器疾患モデル動物を作製したのちに、in vivoで形態学的評価、分子生物学的解析を行っています。さらに、モデル動物からの肺上皮細胞や肺線維芽細胞の初代培養や、遺伝子導入した細胞株を行い、in vitroでの機能解析をすすめています。また、現在話題の成体幹細胞、がん幹細胞の制御機構を解明し、予後不良とされる肺癌の発症機構や一旦癌になってからの維持機構を標的とした新しい治療戦略に取り組んでいます。

−抗菌ペプチドの同定と抗菌作用、臨床応用への検討−
  細菌性肺炎や慢性下気道感染症におけるデフェンシンをはじめとする抗菌ペプチドの病態生理学的意義を解析しています。In vitroでのペプチドの抗菌活性に関する相乗効果、組織傷害性、サイトカインの誘導、放出について基礎的研究をすすめており、将来的に多剤耐性菌やウイルスに対する治療展開を見据えた探索をしています。

(3) 内分泌グループ
−生理活性ペプチドの機能解析−
  当教室では、グレリンなど種々の生理活性ペプチドの機能解析、および臨床応用を目指した基盤研究に取り組んでいます。最近では、国立循環器病センター研究所、大阪大学や昭和大学等との共同研究により、視床下部に局在し抗利尿ホルモンの分泌を抑制する新規生理活性ペプチドNERP (neuroendocrine regulatory peptide)-1, NERP-2を同定しました。現在、その分泌抑制機構やヒト病態での変動について解析しています。

(4) 代謝グループ
−膵β細胞糖脂肪毒性の分子機構と薬剤による調節−
  糖尿病患者では、特に肥満した症例では、膵β細胞が高血糖と遊離脂肪酸に暴露される結果、細胞内酸化ストレスが亢進しアポトーシスが惹起され、膵β細胞数の低下を招くと考えられています(糖脂肪毒性)。当教室では、マウス膵島の初代培養細胞やβ細胞株を用いて、in vivoの膵β細胞糖脂肪毒性モデルを確立し、その分子機構を生化学的あるいは分子生物学的手法を用いて解析しています。また現在糖尿病治療薬として用いられているインスリン抵抗性改善薬や降圧薬のアンギオテンシンII受容体拮抗薬、さらに新しい糖尿病治療薬として期待されているインクレチンの膵β細胞糖脂肪毒性に対する効果とその分子機構を研究しています。

当教室の活動に少しでも興味を持たれた方はぜひご連絡、ご相談下さい。 意欲あふれる先生を心よりお待ち申し上げます。

 

2. 臨床研究についてのご案内

  第三内科では、臨床医と研究者の双方の資質をもったフィジシャン・サイエンティスト(医師であるとともに研究者でもある専門家)の育成を目指しています。 
基礎生命科学における日本の研究が世界的な注目を浴びていることとは対照的に、わが国の臨床研究、特に、多くの患者さんのデータを扱う大規模な臨床研究は欧米に比べて著しく遅れており、ドラッグラグや知的財産の不十分な運用が国家的解決事項となっています。個人の創意と努力で達成することが可能な基礎研究と異なり、臨床研究は患者さんの協力を得て、医師、研究者のみならずリサーチナース、臨床研究コーディネーター、データマネージャー、生物統計家などと呼ばれる専門家がチームをつくって取り組む必要があります。
  第三内科ではこのチームの核となる優れたフィジシャン・サイエンティストの養成を目指して、臨床研究における若手医師研究者のスキルアップを積極的に支援しています。医学・医療の本質とも言える、「ヒトのもつ生物学的多様性の理解」を念頭において一例一例を注意深く観察することが最も重要な研究スタイルと位置付け、積極的に症例報告を勧め、若手医師研究者にインセンティブとして「優秀論文報告賞」を設けています。また、神経内科・呼吸器内科・代謝内分泌の領域で、介入試験やアウトカム研究、観察研究、遺伝子疫学など幅広い臨床研究での成果を上げてきました。全国の医療機関とネットワークを形成し、多施設研究に参加して県外の研究者と議論を重ねることで若手医師研究者の研究マインドを育成する大きな推進力になっていると考えています。また、臨床研究において臨床疫学や生物統計学の専門的知識の重要性は高まっており、生物統計セミナーやデータマネージメントへの研修参加や疫学研究の国内留学を積極的に支援しています。
  当科ならではの臨床研究としてペプチド創薬研究があります。従来の治験とは異なり、新規の生理活性物質を創薬へ展開するための、「橋渡し研究」です。Proof of conceptに始まり、プロトコル作成、トランスレーショナルリサーチの実践、さらに産学連携による特許申請など、習得できるスキルは広範囲に及んでいます。本邦で2件目となる医師主導治験によりドラッグデリバリーシステムの開発を円滑に実施できたことは、薬剤開発研究に必要な態勢を教室一丸となって構築してきた結果と考えています。また、若手医師研究者が実際に新規生理活性物質をヒトに投与して臨床的有効性を実感することは、他の医療機関では経験できない独創的な教育方法であり、新たな医療の創成を実体験することができます。教室の臨床研究の一部は、現在、厚生労働科学研究として助成を受けており、国家的な事業として成果達成が期待されています。
  現在、専門細分化された医療がもたらす課題を乗り越えるため、高度に教育されたフィジシャン・サイエンティストが求められています。症例報告から薬剤開発研究、大規模臨床研究に至るまで、あらゆるスタイルの臨床研究を第三内科では実体験し、優れたフィジシャン・サイエンティストとなるための環境が提供できると確信しています。



准教授(医局長):塩見 一剛(しおみ かずたか)
E-mail:shiomik(A)med.miyazaki-u.ac.jp(Aを@に変えてご使用ください)

 

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